はじめまして、ライターをさせていただいているIです。
2012年4月、当社コミニケ出版より発売されました絵本『蔵王さまと行者さま』。この絵本は、今年の3月31日から始まった「金剛蔵王権現さま特別ご開帳」に合わせて出版された作品です。
この機会に、絵本の作画を担当していただいた、画家とサーファーという異色の肩書を持つ松田大児(まつだたいじ)さんと、制作を担当した下井とのインタビューを掲載します。この中では、絵本製作のきっかけや、普通に読んだだけでは気づかないような話も伺うことがきました。このインタビューを読んで、絵本を読んでいただいて、少しでも伝わるものがあれば……と思っています。
それでは、インタビューをどうぞ!!
――どうしてまた、この絵本を作ろうと?
下井:産経新聞の朝刊1面に載っていた、金剛蔵王権現特別ご開帳の記事が、全ての始まりでした。 初めて蔵王さまを見て「何や、この迫力は!」と、あの青黒い顔が放つオーラに、ただただ圧倒されました。あの険しい目ににらまれて「これは何かせな!」と、そのあとは感・即・動です。気づいたら金峯山寺へ足が向いていました。
――蔵王さまと行者さまのお話は、もともとご存じでしたか?
下井:知りませんでした。今回、勉強させていただきました。
松田大児さん(以下、松田):話自体は詳しく知りませんでしたが、蔵王権現さまの写真を見たことはありました。奈良県立都市情報館で個展(2007年)を開いたとき、僕の次が金峯山寺の個展で、大きなパネルに蔵王権現さまの顔がドカーンとあって、「すごいなあ」と思っていました。まさか絵本を作ることになるとは想像していませんでしたね。
――原作をふまえての作画でした。プレッシャーはありましたか?
松田:描ける喜びの方が大きかったです。だから、プレッシャーは全然ありませんでした。
下井:「これが絵本になっていくのか」という楽しさのほうが大きかったです。編集しながら、ここに大児さんが、どんな絵を描かれるのかな、というワクワク感しかなかったですね。
――そのワクワク感は大児さんに伝わっていましたか?
下井:絶対伝わってますよね?(笑)
松田:「こんな話があるんです」って電話の声がうれしそうで(笑)。こっちまでワクワクしました。
――絵を描く上で苦労した点は?
松田:当時の服装の描き方です。資料はほとんどなく、悩みました。他には、空を飛んだり、指から光を放ったり、超人的な部分の表現を、どう違和感なく描くか悩みましたね。 あとは、魔王(笑)。閻魔(えんま)大王のような姿にしてしまったら、蔵王権現さまと、かぶってしまいます。だから、人間の欲や弱いところにつけこむ詐欺師のような、したたかな姿を思い浮かべて描きました。これは、自分でも納得できましたね。 1枚1枚が絵なので、これでええわっていう絵もあれば、モヤモヤ感が残る絵もあります。全体で1つの作品なので、その感覚は最後までついてきます。なので、締め切り間近にお尻に火がついて、描き直すこともありました。納得できるものに仕上げて、悔いを残さないようにしないといけませんからね。
――お気に入りのシーンは?
松田:やっぱり、表紙に使われている蔵王権現さま登場のシーンですね。最初にここを描きました。あと、2、3ページのシーン(夜、真影麿と刀良売が家で祈りながら眠りにつくシーン)も好きです。ここで描かれている(右側の)山は、二上山なんです。行者さまが千日修行に行くシーンも好きですね。右ページ奥は大和三山で、この先は、吉野の方面を意識しました。
――デザイナーの八尋さんもいい味を加えてくれています。
松田:でき上がった表紙を見て、「いいのができたなあ」と思いました。表紙は完全にお任せで、「この絵を使ってほしい」というような指示は一切せず、イメージすらしていませんでした。どんなふうにできあがってくるのか、ただただ楽しみでしたので、このような表紙にしてもらって、すごくよかったです。
――今回の作品を描き上げた感想は?
松田:本当に楽しかったです。前回(『旅人の甘い蜜』)のときもそう。もともと、中国の漢詩から映像を思い浮かべて絵にするということをしていたので、今まで描いてきたものと、かけ離れていたわけではありませんからね。ましてや地元・奈良の話です。うちの奥さんの実家は、行者さまの母親(刀良売)のいたところで、その集落にある神社の入口には、行者さまの石像があります。私も子供のころに行者さまの話を聞いていたので、下駄を履いている石像を見て、行者さまに似ているなあと思っていました。何か縁を感じますね。
――この話が生まれた吉野を訪れてみて、いかがでしたか?
松田:吉野には、現代社会に不足しているものを満たす「何か」があるのではないか、と感じました。 僕はサーフィンが好きで、種子島に移住するようなタイプの人間です。日ごろから、自然の中で感じるものは、すごく大事なものと考えています。行者さまも「修験道」といって、自然の中で修行をしました。蔵王堂を支える柱も「自然木」で建てられています。自然の荒々しさ、たくましさが実感できる、自然をごく身近に感じられる場所だったので、好きになりました。そういう場所だからこそ、普通の仏さまではなく、荒々しい蔵王権現さまを作られたのかなとも思います。
――読者にメッセージを。
松田:今回描かせてもらって、蔵王堂のことを、少しは知ることができたので、本当によかったと思っています。この絵本を手に取っていただいた方は、ぜひ吉野へ行って、吉野の雰囲気を体感してほしいですね。
下井:この本を、多くの若い人たちに読んでほしいです。なぜ行者さまが、蔵王権現さまを感得できたか、ということを考えてほしいです。 お金のため、自分のためだけではなく、世の中のために、「蔵王さまに出てきてほしい」と祈ったから感得できた、ということをこの本から感じ取ってほしい。 「ああ面白かった」だけではなく、「世の中のために、何か役に立ちたい」「自分には、何ができるのか」と、考えるきっかけとして、捉えていただければ幸いです。 今年のご開帳は6月7日までです。今年から、向こう約10年間、毎年一定期間にご開帳されます。この機会があれば……ではなく、行こうと思ったそのときに感・即・動! すぐ電車に乗って、現地へ行き、「何か」を感じてください。 (ライターIより) 最後までお読みいただいた皆さま、ありがとうございます。コミニケ出版社員で吉野へ行った写真が、Facebookにてすでにアップされています。そちらもどうぞ、ご覧ください!!