絵本『ばっちゃのコグマ』刊行を記念し、志茂田景樹先生に「絵本への思い」についてインタビューしました。熱い思いを語っていただきました。
Q1.絵本を手掛けるようになったきっかけは、どんなことだったのでしょうか。
小説、エッセイなどの著書のサイン会で、若いお母さんと子どもが、野次馬として、しばらく僕を見ていることがよくありました。そういう光景に馴染むうちに、あのお母さんや子どもに読み聞かせをしたいという思いが生まれました。その思いは、僕が母から読み聞かせをいっぱい受けて育ち、そのときの母の声が心地よいものとして記憶に深く刻まれていることとつながっているものだったと思います。
やがて、読み聞かせ活動を始め、1999年秋に「よい子に読み聞かせ隊」 を結成しました。初めは名作絵本を読んでいましたが、次第に自分の絵本を作りたいという願望が強くなり、それを実現させて読み聞かせをするようになりました。
Q2.「ばっちゃのコグマ」は、どんな思いから生まれたお話ですか。
日本は超高齢化社会です。お孫さんのいるおじいちゃん、おばあちゃんは元気です。特におばあちゃんには元気いっぱいの人が多いです。ほとんどが外孫になりますが、お父さんやお母さんから学べないことを学べるはずです。おばあちゃんとのふれあいを通して、またその記憶を通して、幼い子どもが成長していく姿を実感してほしいという願いがあります。
『ばっちゃのコグマ』は、主人公のナオにとって、おばあちゃんの記憶再生装置の役割をはたしています。日本の動物で、優しく力持ちで好かれる動物はクマに尽きるでしょうね。特にコグマは丸っこくてかわいく、自分がいなくなっても孫にメッセージを伝える存在としては最適です。
「みんなに優しく、強くて頼りがいがあり、好かれる人になってほしい」。ばっちゃがコグマに託したメッセージです。それは僕の思いでもあるのです。
Q3.どんな人たちに読んでほしいと思いますか。
お孫さんのいるおじいちゃんおばあちゃん、若いお父さんお母さん、これからお父さんお母さんになる人、さらには元気がなく凹んでいる若い人たちに読んでもらいたいですね。きっと懐かしい思い出と重なるはずです。
Q4.絵本の読み聞かせ活動を行っておられますが、読み聞かせにはどんな効果があると思いますか。
読み聞かせを行うようになってから、弱い者いじめをしなくなったという話はよく聞きます。感受性を豊かに育みますので、偏りがなくなります。将来的には豊かな人間性を構築するのに大きな好影響があります。
もう一つ忘れてならないことは、読み聞かせを行う側の感受性にもいい刺激を与えることです。生きることに前向きになります。萎えかけていた感受性を再び息づかせるからでしょう。大人が自分のために声に出して読むだけで、精神安定効果があります。ぜひ「ばっちゃのコグマ」を声に出して読んで、実感してください。
作者プロフィール
志茂田景樹(しもだ かげき)
1940年、静岡県生まれ。中央大学法学部卒業後、作家を志す。1976年『やっとこ探偵』で第27回小説現代新人賞を受賞。「黄色い牙」で第83回直木賞を受賞。「よい子に読み聞かせ隊」を結成、幼稚園や保井育園をはじめ、さまざまな場所を訪問。絵本『キリンがくる日』(ポプラ社)で第19回日本絵本賞読者賞【山田養蜂場賞】受賞。
木島誠悟(きじま せいご)
1949年、釧路市生まれ。東京デザインカレッジ在席時よりイラストレーションを発表。絵本『キリンがくる日』(志茂田景樹・文 ポプラ社)で、第19回日本絵本賞読者賞【山田養蜂場賞】受賞。絵本『シロクマゆうびんきょく』(ポプラ社)はフランス、アメリカ、台湾で出版され好評を博す。